光触媒とJIS ~光触媒性能の試験方法2~

(1)消臭性能について
 まず空気浄化性能試験は、いわゆる「消臭試験」とは異なります(「消臭性能」については光触媒工業会の標準化委員会の部会で検討していますが、JISがないためPIAJマークの規格ができるかどうかわかりません)。光触媒工業会ができる前の組織に「光触媒製品技術協議会」という業界団体があり、そこでは独自の試験方法で消臭性能規格を作り、SITPAマークという認証制度がありました。この試験ではテドラーバッグという内側をフッ素樹脂加工した特殊な袋を使い、その中にサンプルとニオイガス(アセトアルデヒドなど)を入れて、光を照射して一定時間後のニオイガス濃度を測定して消臭率を評価するというものでした(ガスバッグA法、B法)。この規格では消臭能力があることははっきりしているのですが、それが
実際の使用環境にどう対応しているのかということについては何も示されていませんでした。
 現在、光触媒の消臭性能についての規格は、繊維製品に関して社団法人繊維評価技術協議会の規格に「光触媒消臭加工」マークというものがあります(「光触媒抗菌加工」マークもあります)。こちらはガスバッグを使った規格になっていて、繊維製品(衣類など)に付着したニオイが消えるかどうかといったことを想定した規格になっています。ですので光触媒加工した衣類などの消臭性能を保証するマークを付けたい、という場合は現時点ではこの「光触媒消臭加工」マークの認定を受けることになります。

(2)空気浄化性能試験
 JISの「光触媒材料の空気浄化性能試験方法」(R1701)では5種類の試験ガスを使った方法がり、それぞれ枝番が1~5まで付いています。試験方法は基本的には同じ構成になっており、試料を石英ガラス製の窓がついた試験容器に入れ、そこに試験ガスを流して出てきたガスの濃度を測定することで空気浄化性能を評価します。試験ガスの種類と濃度、流量は次のようになっています。
 1.窒素酸化物(一酸化窒素);1ppm×3L/min
 2.アセトアルデヒド;5ppm×1L/min
 3.トルエン;1ppm×0.5L/min
 4.ホルムアルデヒド;1ppm×3L/min
 5.メチルメルカプタン;5ppm×1L/min
 ガスによって濃度や流量が異なるのは、実環境におけるガス濃度や触媒に対する負荷の違い、試験の精度などによるものと考えられます。
 試験ガスとして窒素酸化物が使われていることから考えられるように、この試験方法は比較的オープンな環境における空気浄化性能の評価を意識したものになっています。評価対象としてはフィルターなども想定されており、前記の消臭試験よりもずっと高い触媒性能が求められる試験方法となっています。この試験では流れてくるガスを次々に触媒反応で処理していくことになります。よく「光触媒は即効性はないが、ゆっくり効果が得られる」と言うことがありますが、決して反応が遅い訳ではありません。流れてくるガスをすぐに処理するだけの反応の速さはあります。反応が遅いのではなく、実環境の光で処理できる量が決まってしまうことや、空気が循環しないと処理できないといったことのために即効性がないようにみえてしまうのだと思います。

(3)PIAJマーク認定基準
 PIAJマークでは現在、窒素酸化物とアセトアルデヒドおよびホルムアルデヒドの認定が行われています(先日の特集ではホルムアルデヒドは検討中と記載しましたが、もう認定が行われていました)。浄化性能としての認定基準は次のようになっています。
  窒素酸化物除去能;0.5μmol/hour
  アセトアルデヒド除去能;0.17μmol/hour
  ホルムアルデヒド除去能;0.17μmol/hour
 単位が「μmol/hour」となっていますが、一般の人にはどんな意味があるのかわからないでしょう。例えばアセトアルデヒドの場合、0.17μmol/hourという数字をこの試験条件での浄化率に言い換えると5%の除去率ということになります。「%」になるとなんとなくわかり易くなるでしょうか。「たった5%」と思う方もいると思いますが、ガスが流れた状態での性能なのでこれでも消臭能力はかなり高いものになります。5ppmのアセトアルデヒドが0.25ppm減ることに相当します。元が5ppmなので5%ということになりますが、仮に10ppmの濃度のガスを使ったら5%、0.5ppm除去できるかというとおそらく0.5ppmは除去できないでしょう。0.25ppmとそれほど変わらない除去量となり、除去率では2~3%ということになってしまいます。逆に1ppmの濃度であっても0.25ppmに近い量を除去することができるでしょう。この場合は25%くらいの除去量ということになります。試験では5ppmの濃度を使っていますが、実際の生活環境では1ppmにもならない程度の濃度です(自動車のような狭い空間でタバコを吸ったときに一時的に数ppmになることはあるようですが)。ですのでこの程度の除去能力でもそれなりの効果は得られることになります。もちろんこれが最低基準なので、各社ともこれ以上の高い性能を持つ製品でPIAJマークの認定を受けることになります。
 ホルムアルデヒドもアセトアルデヒド同じ除去能が必要になっていますが、これも上記と同じ考え方になっています。窒素酸化物は0.5μmolになっていますが、こちらは道路上で車が排出する窒素酸化物除去を前提としており、道路上での窒素酸化物の量などからアセトアルデヒドより高い性能基準になっています。

 以上が空気浄化性能についての解説です。とはいえ内容を端折り過ぎて解説にもなっていないかもしれません。JISには付則としてその規格ができた背景が書かれているものもあります。また、抗菌や空気浄化能以外の光触媒JIS試験法もあります。抗菌の項でも書きましたが、これらJISは「日本標準工業調査会(JISC)」のHPで閲覧することは可能です。図書館によってはJISを置いているところもあります(神奈川県立図書館の川崎分館にもあります)。そちらを参考にしてください。

                                   【室伏】

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