光触媒の歴史

 日本が中心となって研究開発が行われている「光触媒」について、その研究開発の歴史を振り返ってみたいと思います。

【本多藤嶋効果】
 光触媒を有名にしたのはなんといっても「本多藤嶋効果」でしょう。それ以前にも光触媒という概念はありましたが、本多藤嶋効果が1969年に化学の専門誌に発表され1972年にネイチャーで発表されると石油危機といった社会状況もあり、新しいエネルギー創出技術として非常に注目されることとなりました。
 といってもこのとき発表された本多藤嶋効果というのは、現在利用されている光触媒の機能とは異なるものでした。Pt電極と組合せた二酸化チタンの結晶を水の中に入れて二酸化チタンに光を当てると、水が酸素と水素に分解されるという効果です。水素を作ることができるということで、前述したように新しいエネルギー創出技術として注目されたのです。多くの研究開発が行われましたが水素生成の効率がなかなか上がらず、この分野での研究開発はしだいに少なくなってしまいました。

【有機物酸化分解効果】
 水素製造分野での研究は衰退しましたが、二酸化チタンの様々な特性を研究している中で、本来の光触媒機能である有機物の酸化分解についても調べられるようになりました。高い酸化分解活性も報告されています。そして1980年代には二酸化チタンの光触媒機能を利用した水浄化や空気浄化などの研究開発が行われるようになります。大学などの公的研究機関だけでなく民間企業も研究開発に加わり、脱臭装置なども開発されました。
 この有機物酸化分解効果を応用した製品がこの後開発されて行きます。菌やウイルスを除去する抗菌性能やニオイ分子を分解する消臭性能の研究開発が進み、空気清浄機だけでなく塗料や壁紙、タイル、人工樹木、衣類などに光触媒が組合わされるようになりました。

【超親水性効果】
 光触媒の研究開発の中で触媒とは異なる効果も発見されました。1996年に藤嶋先生らが光触媒に紫外線を当てると「超親水性」になることを発見し、翌年ネイチャーに発表しました。このときの研究に東陶陶器の研究者も加わっており、東陶陶器からこの超親水性効果を利用したセルフクリーニング製品が開発されています。また防曇ガラスなどもこの超親水性効果を利用した製品です。光触媒関連製品市場の約半分は超親水性効果を利用した外装関係となっています。

【可視光応答型】
 二酸化チタン光触媒は紫外線で働くのですが、より高性能化を目指して可視光でも働く(応答する)ように開発が進められています。1998年にエコデバイスという会社が可視光応答型光触媒を発表したのを皮切りに、2001年には住友化学や豊田中研も発表しています。
 当初は二酸化チタンに窒素などをドーピングして可視光活性を付与していました。その後は二酸化チタンに他の金属(銅、白金など)を担持したものが開発されています。最近は二酸化チタンだけでなく、酸化タングステンなども光触媒として利用されています。

【規格の統一】
 1990年代から光触媒を使った多くの製品が市場に出回るようになりました。ただ当時は二酸化チタンが含まれているだけで高い光触媒効果があるように謳ったモノもあり、光触媒市場は玉石混交の状況でした。そのため一部の粗悪品のために光触媒全体の信用が低下するといったことがあり、性能評価の方法や基準を統一することになりました。
 以前は光触媒業界団体はいくつかあったのですが、経済産業省の後押しもありその中で大きな2団体(光触媒製品協議会と光触媒フォーラム)が中心となって光触媒工業会という業界団体が設立されました。この団体に所属する会員企業や研究者が中心となってJISやISOといった規格が作られ、また性能基準もPIAJマークという形で作られています。
 光触媒のJIS規格については以前にもこの「最新情報」の中で紹介していますので、そちらを参考にしてください。
 ・光触媒とJIS~光触媒性能の試験方法1~
 ・光触媒とJIS~光触媒性能の試験方法2~
 ・可視光応答型光触媒のJIS規格について

 また最近では光を効率よく使う研究も進んでおり、光触媒を使って水素を生成するといった本多藤嶋効果を見直すような研究も進められています。光触媒の応用分野はさらに広がってゆくでしょうし、様々な製品が生まれてくるでしょう。

                                    【室伏】

執筆者略歴;室伏康行(むろふしやすゆき)
 1983年東北大学大学院工学研究科修士課程修了。同年某大手自動車メーカーに入社、主に
排気ガス浄化用触媒の研究開発に従事。1996年自動車メーカー退社後、医薬関連のベンチャ
ー企業で触媒などの機能性材料の開発を行う。その後化学品メーカーの開発担当役員を経て、
2006年に㈱カタライズの創業メンバーとなり、技術開発を担当し現在に至る。

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