光触媒の仕組み

 酸化チタンに紫外線を照射すると水を安定的に水素と酸素に分解できることを示した本多・藤嶋効果の発見からほぼ40年が経ちます。この発見により光触媒は太陽光で水素を製造できるエネルギー技術として当時盛んに研究されましたが、現在までにこの分野での実用化には至っていません(自然エネルギー利用技術として近年見直されて研究が進められています)。しかし日本では光触媒としての酸化チタンの研究を通して他の分野への応用が進められてきました。それが「日本発」と呼ばれる光触媒による防汚機能や抗菌・消臭機能です。光触媒は光りが当たっていればこれら機能を持続的に発揮するため電気エネルギーを供給する必要がなく、環境や安全・安心といったキーワードを持つ技術として注目されています。ここ数年で光触媒は身の回りの様々なものに応用されるようになりました。以下では光触媒を解説した動画を紹介するとともに、光触媒の仕組みと機能について簡単に説明します。

 

触媒とは

 化学の辞典で「触媒」を調べてみると「みずからは結果的には全く変化せず、しかも反応速度を変え、あるいは反応を開始させ、あるいは可能ないくつかの反応のうち1つを選択的に進行させて生成物の種類を変える役目をする物質をいう。」と記載があります。すなわち「触媒」とは特定の化学反応を促進し、かつ自身は反応の前後で変化しないもののことであり、基本的には消費されないものということです。化学製品の多くはこのような触媒を利用して生産されており、化学工業ではなくてはならないものとなっています。身近なところでは自動車の排気ガス浄化に触媒が使われています。また生物の生命活動に不可欠な酵素も触媒の一種です。

排気ガス浄化用触媒を例として

 光触媒はよく光合成と比較して説明されます。どちらも光によって反応が促進される触媒作用ですが、光合成は有機物を合成する反応であり、有機物を分解する光触媒とは逆の反応になっています。そこで酸化分解反応ということでは同じ排気ガス浄化用の触媒を例にとることにします。
 自動車の排気ガスにはガソリンの燃え残りの炭化水素や一酸化炭素などの有害な物質が混ざっています。これらの有害物質は燃焼することで酸化分解し、毒性のない水と二酸化炭素にして除去することができます。通常、炭化水素などの燃焼には700~800℃以上の高温が必要です。しかし、排気ガス浄化用触媒では、触媒中の活性物質である白金などの金属に炭化水素が吸着すると金属との間で相互作用が生じて炭化水素分子の化学結合が緩み、酸素との反応がし易くなります。それによって吸着した化合物の酸化分解を200~300℃ほどで進めることができるようになります。排気ガスの温度はエンジンを掛けてしばらくすれば数百℃以上になるので排気ガス自身の熱で反応が持続し、排気ガスが浄化されることになっています。同じように、室温ではほとんど進まない酸化分解反応を光の力を利用して促進するのが「光触媒」です。

光触媒の働き

 光触媒である二酸化チタンに光(紫外線)が当たると電子が光のエネルギーを受け取ってエネルギーが高い状態に移り、電子が抜けたところに正孔と呼ばれる状態が生成します。この電子と正孔によって二酸化チタン表面に吸着している酸素や水が活性化することで酸化分解反応が促進されるようになります。しかしただ単に電子と正孔ができるだけでは反応は進みません。電子と正孔がそれぞれ瞬時に反応に使われないと再び電子と正孔が結合して元の状態に戻ってしまい、目的とする酸化分解反応が起きなくなってしまいます。反応を起きやすくするには、酸化チタンの粒子形態や電子と正孔の持つエネルギー状態(化学ポテンシャル)が重要なポイントとなっています。
 二酸化チタンを可視光応答型に改良する開発の初期には、二酸化チタンに窒素を加えて(ドーピング)可視光を吸収する方法がとられていました。しかしこの方法では正孔の化学ポテンシャルが小さくなるため酸化反応の力が弱くなってしまい、結果として高い酸化活性が得られないという問題がありました。現在では他の金属を酸化チタン表面に付着させることで、反応活性を下げないようにしながら可視光応答型になるように開発が進められています。
 この光触媒の酸化分解活性は非常に強いものであり、この反応を利用することで様々な有害物質を室温で除去することができるのです。シックハウスの原因物質であるホルムアルデヒドを始めとして、百種類以上あるといわれる揮発性有機化合物(VOC)も酸化分解して除去することができます。また、各種の細菌、ウイルスに対してもその効果を発揮できる上、薬剤耐性菌を生み出す心配もありません。通常の消臭剤や抗菌剤では、除去したい対象によって効果的な薬剤を選択する必要があります。そのためVOC対策ではそれぞれの化学物質に合わせて様々な薬剤を使用することになり、すべてのVOCに対応するのは非常に難しくなっています。また効果の持続性に限りがあることや、薬剤を環境中に放散することで環境負荷を増す可能性もあります。これに対して光触媒は効果の持続性が高く環境負荷も非常に小さいため、「環境」や「安心・安全」に寄与する環境改善技術となっています。
 光触媒に用いられる二酸化チタンはこのような酸化反応を促進する機能の他に、建物の外壁などの防汚に応用されている超親水性と呼ばれる機能もあります。ただしこの機能は反応を促進する触媒とは異なる現象であるのでここでは解説を省略します。

以上の働きにより、生活環境の中では次のような効果が得られます。

  • 消臭効果⇒様々なニオイに対し、長期間効果を発揮します。
  • 抗菌・抗ウイルス効果⇒菌やウイルスの種類に関係なく効果を発揮します。耐性菌ができる心配がありません。
  • シックハウス対策⇒シックハウス症候群の原因物質であるホルムアルデヒドやVOCを分解除去します。
  • 花粉対策⇒花粉にも酸化分解力を発揮します。
  • 汚れ軽減効果⇒タバコのヤニのような徐々に付着していく汚れを軽減する効果があります。

一般的な抗菌剤、消臭剤との違い

(1)各種使用条件での比較
 ここでは一般的な抗菌剤、消臭剤と比較することで光触媒の特長を解説します。
 まずは抗菌剤としてよく使われている銀系抗菌剤と光触媒(ヒカリアクター)とを較べた結果を報告したいと思います。銀系抗菌剤は銀がイオン化して菌に付着することで効果を発揮すると考えられています。銀がイオン化するには水分が必要です。そこで銀系抗菌剤とヒカリアクターを加工したタイルを用意し、3つの条件で銀系抗菌剤とヒカリアクターの抗菌性能を比較してみました。
実験では菌を増殖するための培地に手のひらを押し付けて培養した菌を水に分散して菌液を作りました。
 条件1;試料表面に直接菌液を接種した場合
 条件2;試料表面にオレイン酸を塗付後菌液接種
 条件3;手のひらや指で試料表面に触れる
菌の測定にはATP拭取り検査装置(ルミテスター)を使いました。これは生物(菌も含む)の生命活動に不可欠なATPの量を測る装置で、濡らした綿棒で該当部分を拭き取って測定を行います。ATPが多いほど数値が多くなり生物(菌)の汚染度が高い、と判断します。保健所が飲食店の調理場などの清浄度を調べるのに使ったりします。
 条件1では銀系抗菌剤、ヒカリアクターともに汚染度が下がりました。しかし条件2,3ではヒカリアクターでは汚染度が大きく下がっていますが、銀系抗菌剤では汚染度があまり下がっていません。最初に説明したように銀はイオンになって効果を発揮しますが、オレイン酸(油の一種)や手の皮脂により銀がイオン化できなかったものと考えられます。光触媒は油や皮脂を分解できるので効果を発揮できました。
 条件1は例えば洗面台や手洗い場などの水回り、条件3は人がよく触れる場所に相当します。従来の抗菌剤は水回りでは効果を発揮しますが、人がよく触れる場所では効果が発揮できない場合があることを示しています。光触媒ではどちらの条件でも効果を発揮しています。光触媒は光がないと働きませんが、明るい環境できちんと光触媒性能を発揮できる状態であれば、汚れに強い抗菌剤と言えるのではないでしょうか。 ATP拭取り試験結果
 この油などの有機物を分解除去するということからもう一つの特長が得られます。一般的な抗菌剤、抗ウイルス剤は菌やウイルスの種類によって効果に大きな差が出ることがあります。また抗菌剤の種類によってはウイルスに効果がない、抗ウイルス剤の種類によっては菌に効果がない、といったこともあります。しかし光触媒は酸化分解力で効果を発揮するため、菌やウイルスの種類によらず効果を発揮します。光触媒は今後発生するかも知れない未知の菌やウイルスに今から備えることができるということです。光触媒による抗ウイルス効果については光触媒工業会でも解説していますのでそちらも参考にしてください。
 ⇒光触媒による抗ウイルスのメカニズム(光触媒工業会HP)
この特長を活かした使用例(一般的な抗菌剤が効果を発揮しにくい場面での使用)
・自動車やバス、電車などのシート
・店舗や事務所の室内
 ⇒人が触れるシートや家具でも抗菌効果を発揮

(2)消臭できる成分の比較
 次に一般的な消臭剤との比較をしてみます。
 ヒカリアクターと市販の消臭剤を使って2種類のガス成分で比較してみました。ホルムアルデヒドはどちらも除去できていますが、トルエンは市販の消臭剤では除去できていません。トルエンは香料など同じ仲間である芳香族化合物です。トルエンが除去できないということは香料成分も除去が難しいということです。実際、市販の消臭剤ではよくバラなどの香りが付いていることがあります。多くの消臭剤では香料成分を除去できないために香りを付けることができるのです。光触媒では香料成分も除去でき、香害(スメルハラスメント)にも対応できる可能性があります。 トルエン除去試験結果
この特長を活かした使用例(一般的な消臭剤が効果を発揮しにくい場面での使用)
・自動車やバス、電車などの室内
・店舗や事務所の室内
 ⇒車内や室内に残った食べ物や香水の残り香を除去

(3)効果の持続性比較
 光触媒は文字通り光の力を利用して、抗菌、抗ウイルス、消臭、花粉不活化などの効果を発揮します。光触媒作用により効果を発揮するので、働くたびに成分が消費されることがなく効果が長期間続きます。その一例として市販の消臭カーテン(吸着剤)と光触媒を加工したカーテンでホルムアルデヒドの消臭試験を繰り返し、消臭量を比較してみました。それぞれの試料をガスバッグに置き、5ppmのホルムアルデヒドを入れ紫外線を照射して23時間後のホルムアルデヒド濃度を測定し、ガスの入替えを行う試験を繰り返します。1回目の測定では市販の消臭カーテンと光触媒加工カーテンともに5ppm消臭できています。しかし2回目では消臭カーテンは1ppmしか消臭できず、4回目以降はほとんど消臭できなくなっています。一方、光触媒加工カーテンはずっと5ppm消臭できています。消臭カーテンも消臭剤の使用量を増やせば消臭量を増やすことはできますが、やはりいつかは消臭剤が消費(吸着量の飽和)され消臭できない状態になってしまいます。光触媒が留まっている限り効果を発揮し続けるというのが特長となっています。
繰り返し消臭試験結果
この特長を活かした使用例(一般的な消臭剤・抗菌剤が効果を持続しにくい場面での使用)
・室内施工
・衣類を始めとする繊維製品など
 ⇒ヒカリアクターは高い耐久性を確保しており効果を発揮し続けます。災害が起きたときに問題になるニオイや抗菌、抗ウイルス対策の一助として今から備えておくことができます。

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抗菌と除菌について

 洗濯用洗剤のコマーシャルで「抗菌よりも除菌の方が効果が高い」といった内容が放送がされていました。そこで抗菌と除菌はどうちがうのか解説します。
 「抗菌」は抗菌まな板とか抗菌タオルとか製品の性質として使われています。まな板やタオルに抗菌性を付与してることを示しています。一方「除菌」は除菌タオルとは使いません。部屋の空気を除菌するとか、洗濯水を除菌する、といったように使います。逆に部屋の空気を抗菌する、とは使いません。抗菌はその対象が菌を抑制する効果を持つことです。除菌はある空間(対象物)に含まれる菌を抑制することです。抗菌と除菌は効果を発揮する対象に主な違いがあり、単純に効果の差を表しているものではありません。
 光触媒は光触媒を加工した表面で効果を発揮するので、菌に対しては「抗菌」という表現を使います。どんなに効果が強くても「抗菌」と表現します。洗剤を扱っている業界団体では「除菌」という表現をしているようです。様々な業界団体が業界にあった規格をきちんと作っていますので、詳しくはそれらを調べるのがいいと思います。
カタライズHPの光触媒最新情報「抗菌と除菌の違いについて」でも説明しています。

花粉不活化効果

>光触媒による有機物の酸化分解効果は花粉にも効果を発揮します。カタライズではスギ花粉アレルゲンタンパクおよびスギ花粉そのものを用いた実験により、花粉アレルゲンを不活化することを確認しています。以下にその実験について解説します。
試験方法は手順としては抗菌試験などと似ています。ガラス板(5×5cm)にヒカリアクターH3を塗付したものを試料としました。衣類などに付着するスギ花粉の分解を想定すると布地に加工した方が良かったのですが、布地にアレルゲンタンパクが吸着すると試験の精度が著しく低下することが考えられたため、吸着がほとんどないガラス板を使用しました。光触媒による効果を測定する上ではこちらの方が適しているとも言えます。この試料にスギ花粉のアレルゲンタンパクを滴下し、乾燥しないように透明フィルムを被せ紫外線を4時間照射したあと、アレルゲンタンパクを洗い出してアレルゲンタンパクの量を測定しました。照射した紫外線強度はタンパク質が変性しないように0.25mWとしました。花粉は屋外を飛んでいますが、屋外の紫外線強度と較べると低めの紫外線強度となっています。アレルゲンタンパクの測定にはELISA法という方法を使いました。この方法はアレルゲン物質の測定に普通に使われている方法です。抗原抗体反応を利用してアレルゲンを測定するものです。タンパクが完全に分解しなくてもアレルゲンとして機能しなくなれば(不活化すれば)測定されなくなる、というものです。光触媒の酸化分解効果による花粉アレルゲンの不活化性能を測定することになります。
 4時間後のアレルゲンタンパクの測定結果は以下の通りです。
花粉アレルゲンタンパク不活化試験結果
 アレルゲンタンパクの量は1サンプルあたりの重量(ng;百万分の1g)で表示されています。ヒカリアクター塗付ガラスの4時間後の測定結果は1.56未満となっていますが、これは検出限界が1.56ngであり試験結果の表示上「1.56未満」となっています。今回の試験ではアレルゲンタンパクは測定できない状態(ほぼ0)でした。
 なお初期のアレルゲンタンパクの量が87.1ngになっていますが、この量は主に実験操作上の制約から決められています。ただしスギ花粉が飛散している時期の大気中のアレルゲンタンパクの濃度が0.06ng/立方mという報告(大気環境学会 42 (6), 362-368)があり、その濃度と比較すると1,000倍以上の量となっているので、実験条件としては充分な負荷になっているものと考えられます。
 以上より、実用レベルで光触媒によりスギ花粉アレルゲンを不活化することができるという結果が得られました。上着やカーテンなどに光触媒を加工することで、室内に持ち込まれる花粉アレルゲンの量を減らすことができるのではないか、と考えています。光触媒を使い花粉対策になるような製品を開発できるのではないでしょうか。
 次に花粉そのものを使い、花粉不活化の実験を実施しました。今回もガラス板(5×5cm)にヒカリアクターH3を塗付したものを試料としました。スギ花粉そのものを試料に滴下して0.25mWの紫外線を8時間照射したあと、花粉を洗い出して花粉に含まれるアレルゲンタンパクの量を測定しています(アレルゲンタンパクの測定にはこちらもELISA法を適用)。花粉のアレルゲンを測定することにより花粉がアレルギーを起こす強さの変化を調べています。8時間後のアレルゲンタンパクの測定結果は以下の通りです。
スギ花粉不活化試験結果
以上より、光触媒によりスギ花粉を不活化することができるという結果が得られています。
この特長を活かした使用例
・カーテン
・車のシート
・上着
 ⇒車内や室内に持ち込まれる花粉を減らすことができます。

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建物外壁での効果

 建物の外壁に緑色の藻が発生することがあります。この藻対策にヒカリアクターが使用できると考ええて現在実験を継続しています。写真は藻が生えてしまった壁と、藻を洗浄後にヒカリアクターを塗付して1年以上経過した状態です。現在までにまだ藻の発生は認められていません。
外壁比較画像
 防藻効果については今後JIS試験なども実施して確認してゆく予定です。詳しくはお問い合わせください。



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また以下の文献で光触媒についてさらに詳しく解説しています。
・技術情報協会「車室内空間の快適性向上と最適設計技術」2024年1月p.71「光触媒コーティングによる自動車室内の抗菌・消臭」
・CMC出版「機能性コーティングの最新動向」2021年12月p.185「光触媒コーティング剤の開発とその特性」
・工業材料Vol.69 No.9(2021)p.55 「光触媒コーティング剤とその抗ウイルス効果」

光触媒に関する話題については「光触媒最新情報」にありますので、興味のある話題をさがしてみてください。

 

カタライズ光触媒の特長

光触媒の仕組みをもっと詳しく知りたい方は下記ホームページを御覧ください。(外部リンク)
・神奈川科学技術アカデミー 光触媒ミュージアム
・光触媒工業会 光触媒情報

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